「絶滅寸前「写植」体験できます 東京・表参道で7日まで」という記事を読んで写植の指定を勉強した30年前を思い出してしまった

photo by nodoca

 

写植といわれても、いまの若い編集者はほとんどピンとこないだろう。

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絶滅寸前「写植」体験できます 東京・表参道で7日まで:朝日新聞デジタル
絶滅寸前の写植機を体験できる展示会が、東京都渋谷区神宮前4丁目の表参道画廊で開かれている。 …

 

 

 

 

絶滅寸前「写植」体験できます 東京・表参道で7日まで

【飯塚晋一】活字を使った活版印刷の後、印刷業界の発展を担ってきた写真植字(写植)。現代ではコンピューターに取って代わられたが、絶滅寸前の写植機を体験できる展示会が、東京都渋谷区神宮前4丁目の表参道画廊で開かれている。

写植は、写真の原理を活用しフィルムから文字を印画紙に焼きつけ、印刷原稿を作る技術。1924年に日本で開発が始まり、来年で90年を迎える。70年代~90年代前半は印刷物のほとんどが写植で作られ、全盛期を迎えた。

会場には卓上写植機や文字盤などが並び、実際に文字を打ち、印画紙を暗室で現像する体験ができる。

主催した伊藤義博さん(61)は「今では都内でも写植業者は数社しか残っていない。でも写植の美しい文字を求め、デザイナーや作家から注文が来る。一時代を築いた産業を若い人にも体感してもらいたい」と話す。

7日まで、正午~午後7時(7日は午後5時まで)。入場無料、写植体験は2500円。問い合わせは午後5時まで同画廊03・5775・2469。

ボクが最初に編集に携わったバイト先は活版印刷だった。一部、見出しや広告を写植で制作していて、その発注のために、同じビルの下の階にあった写植屋さんに出入りしていた。

2DKの1室に機械が据えられていて、オペレーターの人が操作しているのをなんとなく覚えている。当時は忙しいさなかに出入りしていたので、ゆっくりと機会を眺めたり、説明してもらっているような余裕はなかった。それほど写植屋さんはどこでも大忙しで、繁盛していたのだ。

編集プロダクションに入ると、自分で写植の指定をしなければならないようになっていた。

活版は号やポイント、写植はQ(級)指定でそれぞれ大きさが異なり、まずこれに慣れるのが一苦労だった。

それに写植は0.25mm(だったと思うが)の調整が可能で、それがデザイナーには活版よりも自由度が高いと評価されたのかもしれないが、多少ズレていたほうが味があっていいよというような版木本の滑稽文学を専攻していたこちとらにとっては面倒極まりないもので、指定書をもっていくとよく写植屋さんから「これじゃあ、ちゃんと収まらないよ」なんて怒られたものだ。

すぐに、大日本印刷でコマンド付きのコンピューター写植というものができるようになったけど(確かCTSって呼んでいたな)、これがまたよくバグが出るシステムで、怖くて使えなかった(赤字を入れたところ以外でも勝手に文字が変わってしまうので、最終的には直した部分だけではなく全部をチェックしなければならないという、非効率なものだったのだ)。

でも、数年してアップルのDTP(デスクトップパブリッシング)が普及すると、写植の指定で勉強していたレイアウトのノウハウがとても役に立った。基本的にAdobeのイラストレーターの操作は、ほとんど写植の指定を画面上で再現しているようなものだと感じたのを覚えている。

写植は版下を編集に近いところで制作・修正できていたので、書籍・雑誌編集にとっては画期的だったのかもしれない。印刷所に行かないと制作・修正できない活版にはない自由度が写植にはあったと感じる編集者が多かったのだろう。

文字盤をレンズで拡大縮小して印画紙に焼き付けて、現像して版下にしていたのだけれど(版下という概念ももうすでに説明するのが難しいかもしれないな)、この文字盤を買っていれば食っていけるという時代があったそうだ。ただ、写研とモリサワという2大書体メーカーの豊富な字体をどのように揃えるかなど、費用対効果を考えなければならない部分もあったりと、ビジネスとしては難しい業態だと学生心にも思ったものだ。実際に、DTPによってあっという間に追いやられてしまったわけなのだが。

とはいえ、漫画の吹き出しは切り貼りができる写植に頼っていた期間も長かったりと、ジャパニメーションへの貢献度も高いことは付しておきたい。

正直言って、写植機をただ懐かしむだけの感情で見ることはできない気がするので(辛かったり嫌だったりする思い出が多いシチュエーションと重なるような気がするのだ)、この企画を遊びがてらに楽しんで来たいとは思えないようなのだが、いろいろとご迷惑をかけた写植屋さんの苦労を偲ぶためにも、体験しておいてもいいかもしれないなとは思っている。

 

写植 – Wikipedia